譜読みの両輪
私は長いこと、楽譜浄書の仕事をしてきました。楽譜浄書とは、手書きの楽譜原稿を印刷譜に仕上げる仕事です。
多くはピアノ譜ですが、吹奏楽やアンサンブルや、エレクトーン、シンプルなメロディー譜に、二胡やハーモニカの数字譜なども多く扱ってきました。
もちろん自分でも楽譜入力をしますが、手書き原稿と照らし合わせる、校正(チェック)の仕事の方が大半で、多いときで1日約200ページ、1ヶ月で2000ページ近い楽譜を見てきました。
年数にすると、もう10年以上です。
同時に、制作者の育成にも取り組み、講義や制作演習のほか、楽典指導もあり、ここが私の音楽指導者としてのスタートになりました。
当時、これと平行して室内楽やアンサンブルの伴奏ピアニストとしての活動もしていましたが、目下の悩みは、自分の練習時間があまりにも少ないことでした。
毎日200ページの楽譜とにらめっこし、受講生の課題を添削する日はここへ100ページ分がプラスされ、講義もあり、さらに事務仕事もこなして、本当にピアノを弾くのに使える時間が限られていました。
練習にかけられる時間が本当になくて、自分の譜読みがもっと早ければ、どんなに助かるかと思ったのです。
そうなると、譜読みも校正も、スピードと精度を同時に上げることが、自分の練習時間を確保するためにも最良かつ急務となりました。
どんな作業でも仕事でもそうですが、技能はくり返して体が慣れることである程度まではスピードが上がり、作業にかける時間も短くなっていきます。
作業効率まで考えれば、時間はさらに短縮できます。
しかし、スピードを上げることは、入力間違いや作業ミスを増やし、作業の正確性を下げるリスクもあります。
ミスが重なれば、それを修正するためにまた時間がかかり、結果的に時間をロスします。
そうならないために、あることを考えるようになりました。
それは『先を読む』ことでした。
次に何が出てくるのか、少しでも早く認識できたら、次に必要な判断を早く下せます。(迷っている時間も、作業時間を増やす要因になります。決定力を持つことは、スピードアップに欠かせません!)
コード・ハーモニーの進行を予測できれば、原稿と照らし合わせてチェックするだけでなく、メロディーの不自然さから音や臨時記号の間違いを見つけ、ハーモニーからコード表記の間違いを探せます。
予測を立てながら譜面を見るクセがついたことで、精度を上げながら、短時間で作業量を大きく増やせるようになりました。
譜読みでも、次のハーモニーを予測して、コード進行をいち早く把握することで、左手の伴奏や右手のパッセージで、次に自分がする動きを読めるようになりました。
これによって、体が前もって動くようになり、初見もしやすくなりました。
結果として、譜読みにかける時間を大きく短縮し、自分の練習に余裕を持てるようになったのです。
テクニックをつけることは、譜読みのスピードを上げます。
同時に、予測を立てて先を読むことで、初見力もアップします。
それには、やはり楽典や和声の知識が欠かせません。
テクニックと知識、この両輪で、譜読みはもっと正確に、短時間でできるようになっていくのです。
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