もしも音符がアルファベットだったら・・

みなさんは、『フォニックス』をご存知でしょうか?

英語の読み書きの基礎になるもので、アルファベットの文字を見て正しく読み、正しく書くことができるようにする英語学習法です。

英語ネイティブの子どもたちも、この『フォニックス』を学びます。

どれだけ上手に英語を話せても、まずはフォニックスを学ばないと、ネイティブも自分で読み書きができないのです。(もちろん外国人学習者にとっても、フォニックスはとてもいい英語学習法です!)


フォニックスを学んだ後は、grammer(文法)の学習が始まります。

(そう、ネイティブも文法を勉強するのです!日常で使っているからといって、自然と勝手に読み書きができるようになるわけではないのです。笑)

ただし、ネイティブなら幼くして、すでに日常の会話の中で基本的な文法は自然に知っています。

自然に知っていることを、正しく読み書きするために学ぶのが、ネイティブの学ぶgrammerです。


そして人前での発表は、"Show and Tell"という形で、自分の好きなものをクラスに紹介するところから始まります。

自分の言葉で意見や考えを人に伝えるという経験を、4、5歳の幼児期から積むのです。

学習のなかで、子どもたちは幼児語から大人の言葉へとボキャブラリーを発展させ、さらに10歳ごろからは科学的な言い回しへと表現を磨きます。

さらに、エッセーやペーパーを通して、文章表現や論理展開の仕方も学んでいきます。


日本人の子どもたちも、4、5歳になるとかなり正確に物事を言葉で言い表わせるようになります。

5、6歳頃には平仮名やカタカナを学び、読み書きもできるようになります。

その後は『てにをは』を学んで、文章を正しく読み、自分でも書けるようになっていきます。

10歳頃になると、日本語(国語)でも科学的で論理的な文章を扱ったり、話し方も大人びた表現を使うようにもなります。

こうした言語習得の進み行きは、どの言語をとっても、基本的な大枠は同じです。

理解力や思考力の成長にともなって、語彙を増やしたり、複雑で説得力のある文章を読み書きしていくようになります。


さて、音楽の場合はどうでしょう?

ドレミを読むことが、アルファベットや平仮名・カタカナの学習だとしたら、音楽の文法はどこで学ぶのでしょう?

ボキャブラリーを増やし、より説得力のある表現ができるようになる過程は、どこで得られるのでしょう。

自分の言葉や知識をつかって自己表現を実践する"Show and Tell"のような場所は、どこにあるのでしょう?


私は、音楽をやっていくのにも、文法やボキャブラリーの習得は必須だと思っています。

人に何かを伝えるとき、文法の基礎ができていなかったら、物事の前後関係や話の筋がおかしくなってしまいます。

音楽の場合、キー(調性)が分かり、音を自由に行き来できることは、身につけるべき最初の音楽の文法です。

和声感は、ボキャブラリーにあたります。その基礎的なものが、カデンツでしょう。

同じ言葉でも、文脈や前後関係でニュアンスが変わったり、比喩であったり、さまざまな意味で使われます。

それに似て、音楽の中でも音や和音(ハーモニー)は、調が変われば役割が異なります。

そのことが理解できると、音楽の流れに応じて音の意味を捉えられるようになります。

音の意味や役割を正しく扱えなかったら、説得力のある表現を作ることはとてもできないでしょう。


文章の展開、いわゆる『起承転結』にあたるのは、音楽でいえば形式、曲の構造・構成といったことです。

ここに、伝えたいある主張(テーマ)があり、そのテーマをより発展させていくために、例えを出したり、問答スタイルを取り入れたり、データを提示したりして、議論を展開させていきます。

音楽でいば、調を変えたり、リズムで変化をつけたり、単音から重音に厚みを増したり、伴奏の形を変えたりして、フレーズをいくつも繋げながら主張をくり返し、曲を展開させていきます。

さらにテーマは複数あることも多いわけですが、まったく無関係なものが入り込むことはなく、なにかしら関連することがあって、登場してくるのが普通です。


こうした基本的な文法、ボキャブラリー、主張の展開の方法を知るに伴って、次はこれを実践する場が必要です。

実践する場がなかったら、せっかく身につけた文法もボキャブラリーも、論理構成の知識も、なんの役にも立ちません。

実践する場がなかったら、会話力やボキャブラリーはもちろん、表現力がきたえられることもないのです。

何年も英語を勉強してきても、外に出たら話せないのは、実践する場がないからではありませんか?(多くの語学学習の現場で、言われていることです。そして、実際ほんとうにそうです!)

では音楽の場合、それができる場はどこにあるのでしょう?


私は、それが曲なのだと思っています。曲の中で、表現力や説得力のある展開方法を鍛えるのです。

その前提として、以下の3つのことを同時に考えていく必要があります。

デュナミク(強弱)で音の背景や場の明るさ(トーン)を形づくり、言葉の機微(表情)としてアーティキュレーションがあり、テンポで場のスピード感と抑揚をコントロールします。

そして長い曲でも短い曲でも、内容をもった論理展開ができるようにきたえていくのです。

聞いている人が飽きたり、退屈したりしないよう、おもしろみを作っていくことも大切です。


ここで初めて、テクニック(=体の使い方)が、実践として役に立ちます。

なぜなら曲のほとんどが、2〜5音の短いパッセージと、スケールやアルペッジョの応用でできているからです。

そして、このテクニック自体も、曲のなかで鍛えていくことになるのです。実践に耐えうるテクニックへと、昇華させていくということです。


こうしてみると、音楽の基礎としてスケールやアルペッジョに取り組むことの必要性、大切さがわかるのではないでしょうか。

スケールやアルペッジョは、テクニックとしてだけでなく、音楽の基本的な文法・ボキャブラリーとしても、大切な土台となるのです。

それを、同時にやらない手はありません。

地道な内容ですが、順を追って取り組めば、必ず結果になって現れます。

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